量子科学の研究

量子スピンHall系におけるスピン流・スピン蓄積および不純物効果

 スピンHall効果とは、試料に電流を流したとき、電流と垂直な方向にスピン蓄積が生じる現象です。しかし、スピンは電荷と異なり保存しないので、スピン流の分布やスピン蓄積が生じる仕組みは、Hall効果における電流や電荷蓄積に比べ一層非自明なものとなります。ここでは幾何学的スピンHall効果やその発展形としての量子スピンHall効果を示す系について、実空間シミュレーションを用いて研究しています。また、不純物による局在効果に関し、特に量子Hall効果や通常のスピンHall効果における場合との違いに着目して調べています。

不均一な超伝導体に関する研究

不均一な超伝導体とは、他の異なる物体と超伝導体を接合させた系や超伝導体に磁場を印加した系などのことです。超伝導はクーパー対と呼ばれた2つの電子から成る対凝縮を起こした状態であり、ペアポテンシャルというエネルギーで表します。銅酸化物超伝導体はd波ペアのように符号変化のあるペアポテンシャルを持ちます。符号変化のあるペアポテンシャルの超伝導接合系や磁束量子系に起因する干渉効果が面白い量子物理現象をもたらします。グラフェンで期待される相対論的振る舞いと超伝導のような凝縮系との物理に着目して、グラフェン・超伝導体との接合系の研究もしています。

トポロジカル量子現象およびその量子シミュレーションの研究

多数の量子があつまると古典的な物理現象では説明できない特殊な状態が出現します。量子多体系において発現するトポロジカル量子現象はそのような特殊な状態の代表的な例として知られています。これらのトポロジカル量子現象について人工量子多体系の模型をターゲットに研究しています。具体的には、様々なトポロジカル相における短距離エンタングルメントエントロピー(量子もつれエントロピー)の性質や、バルクトポロジーの特徴づけの理論研究、バルクトポロジカル相に起因するエッジ状態の性質などを調べています。さらに強相関系におけるトポロジカルポンプの一般的な構築法について対称性に保護されたトポロジカル相の存在から提案を行い、新しいタイプのチャージがポンプされるトポロジカルポンプの発現を理論的に探究しています。

異常Hall効果の幾何学的側面と不純物効果によるHall伝導率の量子化

強磁性金属において、その磁化とは異なる方向に電流を流したとき、電流と磁化の双方に垂直な方向に起電力が生じる現象を異常Hall効果と呼びます。この現象の仕組みを明らかにすることは、物質設計に関する重要な指針にもつながるものと期待されています。ここでは特に、エネルギーバンドを形成する電子波動関数の幾何学的位相に起因する仕組みに着目して研究しています。不純物の効果についても調べており、特に局在効果が顕著に現れる2次元系に対して、量子Hall効果と同様の仕組みでHall伝導率の量子化が起こる可能性について探求しています。

フラットバンド系における多体局在現象、熱平衡化、量子状態の保護の研究

フラットバンド系と呼ばれる量子多体模型は粒子の波ととしての干渉効果からコンパクト局在状態とよばれる特異な1粒子基底を取ることができます。この局在粒子が多体系において多数存在するとき不純物によらない局在現象が起きます。このような局在現象下で粒子間相互作用が印加された場合、フラットバンド多体局在現象と呼ばれる現象が出現する可能性があり研究をしています。この多体局在現象は初期の量子状態の波動関数の情報(量子情報)が保存されることが示唆されます。さらにこの現象は孤立量子系における固有状態熱化仮説の破れの例を提供し統計力学の基礎的問題とも密接に関係しています。